Abstract : |
左心室心尖部から挿入する, いわゆるapical ventには種々の目的が課せられている. 中でも重要と考えられるのは左心室の圧ならびに容量負荷の軽減で, それにより心機能を良好に保ち, あるいは心機能回復をたすける. したがって, 心機能の良否と負荷の軽重とがapical ventの意義に重大な関連を有する. 一方apical ventの不利な点も明らかにされている. これら両面を勘案しての十分な検討が使用にあたって当然必要と考えられる. われわれはpotassium-induced multi dose cold blood cardioplegiaを採用し良好な成績を得ているが, 本法導入以来の全例にapical ventを用いていない. 体外循環では左心室負荷を軽減するように心掛ける. 僧帽弁疾患では左心房からFolly latex catheterを短時間挿入するが, これはair ventとしての使用法にすぎない. apical ventをこれら臨床症例に用いなかった理由はわれわれの動物実験成績に裏付けられたもので, potassium-induced multi dose cold blood cardioplegiaで90分の大動脈遮断をした犬の心機能回復は極めて良好であった. 臨床例55例はすべて同一の術者により一定の術中判断の下に手術された. 症例は弁膜症が35例と大半を占め, うち24例に30個の弁置換が行われた. 2回目の弁手術が5例, 細菌性心内膜炎での緊急二弁置換が2例, 冠動脈bypass手術が2例で, うち1例は弁手術を併せ行った. その他, 上行弓部大動脈瘤や, 先天性心疾患であった. 術後1週間以内の死亡は4例で, 低心拍出によるものは重症ファロー四徴症の1例のみであった. 空気栓塞は1例もない. これらの成績からpotassium-induced multi dose cold blood cardioplegiaを用い, 体外循環法にも十分注意を払えば, apical ventは一般に不要であると考えている. |