アブストラクト(30巻3号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : Pyrolytic carbon製二葉ディスク弁の研究─基礎と臨床─
Subtitle : 原著
Authors : 笠置康*, 和田寿郎
Authors(kana) :
Organization : 東京女子医科大学第1外科, *東京女子医科大学大学院
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 30
Number : 3
Page : 379-393
Year/Month : 1982 / 3
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 多種多様の代用弁が今日までに開発され, その臨床使用が行われてきた. しかしながらすべての面において完壁な代用弁はいまだない. 1978年より日本においても臨床使用が可能になったpyrolytic carbon製二葉ディスク弁〔St. Jude Medical(S.J.M. )弁〕を人工弁テスト装置を用いて, Starr-Edwards弁, Bjork-Shiley弁, Hall-Kaster弁, Hancock弁の4種の代用弁との比較実験を行った. また本弁を使用した臨床例120例に対する検討を加えた. 定常流実験は順流抵抗及び弁完全閉鎖時の漏れ量測定を行い, 拍動流実験では流出流量波形の記録・弁前後の圧較差と弁口面積, そして弁周囲の流れの可視化・斜めにして固定した傾斜開放型ディスク弁のディスクが閉鎖する機序について追求した. S.J.M. 弁はback flow, leakage flowともに小さいため一回拍出量は大であった. 弁の抵抗は85°のディスク開放角と相関して最小であった. 弁周囲の流れは二葉ディスクによる狭小な停滞域を示し, 二葉ディスクが閉鎖する際の逆流は弁上流の中心部に集束した. 二葉ディスクの構造により, 斜めに固定した位置においても, ディスクの閉鎖不能は起こらなかった. S.J.M. 弁を120例に132個の置換をした. 術前後の心臓カテーテル検査の比較を行い術後の圧較差及び弁口面積を求めた. さらに術後の血栓症についても検討を加えた. 術後の圧較差及び弁口面積はBjork-Shiley弁, Lillehei-Kaster弁とほぼ同等であった. pyrolytic carbonは安定な物質で化学変性を受けず, また弁周囲の流れはより層流に近いものであることからもS.J.M. 弁は血栓形成の可能性が低いと期待できる. しかし6例(3.3%, 100patient years)の血栓塞栓症の発生を見ており, 術後の抗凝固療法は他の傾斜開放型ディスク弁と同様のコントロールが必要であろうと考える. 本弁は特徴的な構造による様々な利点を有し, 安定した臨床成績を示したことからも, 今後臨床使用が勧められる人工弁と考える.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords : S.J.M. 弁, 心臓代用弁, 人工弁テスト装置, 弁機能, 術後血栓症
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