Abstract : |
大血管転位症(TGA)に対するMustard手術は, 最も心房に過大な侵襲を加える手術であり, 術後不整脈(特に上室性不整脈)が高率に発生することが知られている. このMustard手術における不整脈発生を防止するため, 心房内刺激伝導機構について考察し, 洞調律の維持にとって洞結節・房室結節の温存に加えて結節間伝導の維持が重要であり, Mustard手術時に唯一結節間伝導が維持し得る領域 - "noble zone"の存在を明らかにし, これらの保護温存を計るべく手術手技に改良を加えてきた. 今回, Mustard手術後の不整脈防止対策の効果と結節間伝導に関する理論の真偽を判定するため, 術後不整脈の発生状況をスカラーECG及びHolter 24時間連続モニターECGにて経時的に調査した. 1978年9月から1981年12月末までの3年4カ月間に18例のTGAに対するMustard手術を経験した. TGA(I)型11例, (II)型7例であった. 術前洞調律を示した17例(他の1例はII房室ブロック例であった)のうち, 術直後に洞調律を呈したのが15例88.2%, 結節調律が2例11.8%であった. 術後早期に2例死亡し, 結節調律の2例ともが洞調律に復し15例が洞調律を呈した. 遠隔期に2例が死亡し, 生存13例中12例92.3%が洞調律を維持し, 1例7.7%が再び結節調律となり最終的には徐脈頻脈症候群を呈するようになった. 本例は術中に洞結節周辺に広範な出血を来していた. Holter ECGにて日内変動を詳細に検討し得た10例の結果は, スカラーECGでは洞調律と診断し得た症例でも術中洞結節やnoble zoneに出血を来した症例に調律異常の合併を示していた. 以上の調査結果より, 術中の洞結節, 房室結節及びnoble zoneの保護温存がMustard手術後の不整脈発生の防止及び洞調律の維持にとって非常に重要であり, 術後の結節間伝導はnoble zoneが担っ いると確認し得た. |