Abstract : |
本研究の目的は, 全身循環維持の観点から, 補助心臓の至適適用時期と限界を決定する方法を確立することである. 人工心臓装着ヤギの心拍出量を正常レベルから一定値まで減少させ, その状態を一定時間保持することによって低心拍出量状態を作成した後に, 再び正常心拍出量に戻すという実験を繰り返した. また, この方法を応用して, 一定量の低心拍出量状態に対して, 補助心臓を適用するまでのプロセスを実験的にモデル化した. 実験時, 動脈血乳酸値, ピルビン酸値を経時的に測定した. 一方, 実験時の人工心臓装着ヤギの代謝動態を理論的に解析するために, 低心拍出量状態時及び心拍出量改善後の回復過程の動物の代謝動態を説明する数理モデルを作成した. これらのモデルを利用して, 実験時の動物の嫌気的代謝の動態を動脈血乳酸値, ピルビン酸値の経時的推移から解析した. その結果を要約すれば次のようになる. 1)大動脈内バルーンパンピングなどの補助循環施行後に血中乳酸値の減少経過を観察し, その減少率が正常レベル以上でゼロとなる時点が存在すれば, その時点が補助心臓の至適適用時期である. 2)補助心臓は, 遅くとも, 血中乳酸値が140mg/dl以上にまで上昇する以前に使用を開始すべきである. 現在, 補助心臓の適用は, 主に心機能の回復, 悪化を示す諸指標に基づいて, 血行動態面から決定されている. 補助心臓適用患者に発生する多臓器不全を防止するためには, 全身低灌流の影響も考慮して代謝面から補助心臓の適用を決定する必要がある. 本論文で示した, 低心拍出量状態時及び心拍出量改善後の回復過程の血中乳酸値, ピルビン酸値の経時的推移から代謝動態を解析する方法は, 補助心臓の適用時期, 効果, 限界を決定するために, 極めて有用な方法であると考えられる. |