Abstract : |
開心術中の心筋保護手段の1つとして, ice slushによる局所冷却法や, 種々の組成を有する心筋保護液が今日不可欠のものとなっており, 各施設で使用されている. そして術中に用いる心筋保護液は, 特別な灌流回路を用いる場合を除いては, 通常その低温効果を期待して, 基準溶解液のボトルに氷片が浮遊しているような状態で用いるのが一般的である. しかし, このような凍結と解凍を繰り返した液相と固相が共存する『液体』では, 物理化学でいうところの偏析と逆偏析, 及び溶媒牽引が働いており, 意図した組成の液とは大きく異なったものを用いている可能性がある. 著者らが筑波大学付属病院で心筋保護液として用いているGIK液はpH 7.8, Na+ 17mEq/L, K+ 20mEq/L, 浸透圧352mOsm/kgを意図したのであるが, 実際に術中に使用しているときには, pHはほぼ意図した値をとっていたものの, Na+は33~18mEq/L, K+は33~17mEq/L, 浸透圧は750~350mOsm/kgと意図した値よりも高値で, その値も一定ではなかった. このようなことは, 意外と注意のはらわれていない落し穴であり, 心筋保護液がかえって心筋傷害液となる可能性もあるので注意を喚起したい. |