Abstract : |
体外循環という非生理的環境が赤血球性状に及ぼす影響について臨床症例で検討を加えた. 赤血球変形能は5μの多数の穴を持つ膜を一定量の血液が通過するに要する時間より測定した. その結果, 変形能は体外循環開始直後を100%とすると, 1時間後には70.4±4.9%と有意に低下し, その後も低下傾向にあった. 脆弱性は低浸透圧食塩水下で50%溶血を惹起せしめる濃度から測定した. その結果, 脆弱性は1時間で95.9±1.3%と有意に低下するが, 以後は2時間で95.1±1.3%とほとんど変化を認めなかった. この原因を検討するため赤血球膜コレステロールを測定すると, 1時間で106.6±1.7%と有意に増加し, 2時間後には109.6±2.2%と, 以後はほとんど変化を認めなかった. 膜コレステロールと脆弱性変化とは鏡像関係にあり, よく似た変化を示した. これに対し赤血球膜燐脂質及び血漿コレステロール, 血漿燐脂質は体外循環中, 有意な変化はみられなかった. 以上の観察結果より赤血球脆弱性低下は膜コレステロールの増加により赤血球膜面積の増加が招来され, そのため低浸透圧下での赤血球容積増加に対し抵抗性を獲得したものと考えられた. 赤血球変形能低下は膜コレステロール増加による膜流動性の低下が原因と推測された. 赤血球は脂質合成系を有しないため, その供給は血漿との交換, 移行によるとされている. 従って, このような膜コレステロールの変化及び, それに付随した膜性状の変化は体外循環という非生理的環境下での脂質代謝の変化による影響と考えられた. |