Abstract : |
後天性弁膜症手術例35例において, 順行性cardioplegia法(I群)15例, 逆行性cardioplegia法(II群)20例の心筋保護効果を心筋代謝, 及び心筋逸脱酵素の面から比較検討した. 心筋保護液としては4℃ St. Thomas Hospital液, もしくはK+ 16mmole/l Mg++ 16mmole/lを希釈体外循環血に加えた15℃ blood cardioplegiaを追加使用した. 術中採血は橈骨動脈と冠静脈洞から経時的に行い, 指標として心筋酸素摂取率(EO2), 心筋乳酸摂取率(Elac), 冠静脈洞-動脈血PCO2較差(ΔCO2), 同カリウム濃度較差(ΔK+), 同血糖値較差(ΔGlu), 血中ミオグロビン値(Mb), 術後はcreatine kinase-MB(CK-MB), asprate transaminase(AST)を用いた. 手術成績はII群で不整脈による病院死2例IABP使用例が2例あったが, 心筋代謝, 及び心筋逸脱酵素値上は特に異常値を示さなかった. 大動脈遮断解除後の心筋代謝上の推移は両群ともほぼ同様の時間的経移をたどっており, K+の早期排泄とEO2の上昇, ΔCO2の拡大とに特徴づけられる. しかしElacからはI群で遮断解除直後に乳酸の著明な遊出を示すのに対し, II群ではほぼ拮抗しているのが観察された. また遮断解除後90分の測定時間内ではElacは両群とも多くの症例で正又は負値を繰り返しており, 長時間にわたって部分的嫌気性代謝が行われている可能性を否定できなかった. 心筋逸脱酵素遊出量(max CK-MB, ΣCK-MB, max Mb, AST)はI群においては大動脈遮断時間と有意に相関して増加する傾向を認めた. 一方, II群では多少の増加を認めるだけにとどまり, 遮断時間との相関はmax Mbを除き統計的有意差を認めなかった. |