Authors : |
田中二郎, 志岐克尚, 森田茂樹, 中野英一, 吉利用和, 窪山泉, 上野安孝, 川内義人, 古森正隆, 徳永皓一 |
Abstract : |
1977年より1983年までに, 8例の患者における後天性胸部大動脈疾患外科治療に際し, 大動脈弓部分枝遮断が加えられた. 脳血行遮断に伴う脳虚血障害防止手段として, 4例で体外循環併用超低体温下循環停止(96±70分)法が, 4例で中等度~超低体温下垂分離体外循環(112±27分)法が用いられた. 低体温への導入には, 全例表面冷却が用いられた. 前者の循環停止群4例中3例で, 脳血行遮断中も大腿動脈より, 低~中等度流量の体外循環送血を維持した. 手術死は, 195分の完全循環停止を受けた弓部大動脈全置換例1例のみで, 吻合部出血が原因であった. 病院死は2例で多臓器不全(術後68日目)と成人呼吸窮迫症候群(ARDS)(術後102日目)が原因であった. 耐手術例7例中, 不満足な分離体外循環に終わったDeBakey I型の解離性大動脈瘤の1例が術直後より全身性疫変を伴う昏睡に陥ったが, 10日目に呼名反応が得られた. 上行大動脈壁の高度石灰化のため97分の脳循環停止下に大動脈弁置換を行った1例では, 術中一時的に左右瞳孔不同が出現し, 術後4日間譫妄状態が続いたが, その後の回復は順調であった. その他, 60分の脳循環停止例と, 126分の分離体外循環例が, それぞれ術後21日間, 15日間譫妄状態に陥ったが, いずれも脳神経障害を残すことなく回復した. 循環停止法, 脳分離体外循環法の両者とも脳虚血障害防止手段として有用ではあるが, 今後一層の改良が加えられるべきである. 現時点では, 分離体外循環法が, 時間的制約の点より, より安全性が高いと考える. ここに両者の問題点とその対策について考察した. |