Abstract : |
経静脈性に両側性の横隔神経電気刺激呼吸法-electrophrenic respiration(EPR)-を用いて呼吸管理を行い, 血行動態における従来の陽圧呼吸管理との相違を実験的に検討し, また臨床例での検討を開心術後の症例で行った. 動物実験において, 両側性EPRをカテーテル電極を用いて施行したが, 経静脈性刺激による不整脈発生はカテーテルの先端とS-A nodeとの距離を30mm以上離せば問題のないことが判明した. 24時間の連続刺激による疲労現象に対する検討では, 実験動物の体温の保持などの良好な環境管理と酸素の投与で, 実験動物の十分な呼吸換気量の確保が可能であったことから, 短期間使用に関しては問題がないと思われた. 血行動態に及ぼす, 陽圧呼吸とEPRの影響の比較検討ではAOP, PAP, RAP, LAP, AO-FLOW, TPRにおいて, EPRではAOPの上昇, PAPの低下, RAPの低下, LAPの低下, AO-FLOWの増加, TPRの減少を認め, 血行動態における有意な改善を認めた. また右心負荷増大モデルとして6頭の成犬で三尖弁閉鎖不全(TR)を作製しEPRにより著しい血行動態の改善を確認した. 臨床例におけるEPR使用は, 開心術後の14例に行った. 全例で十分な呼吸管理と血液ガス所見を得ることができ, 2~6時間, 平均3.17時間のEPRで自発呼吸に移行できた. その間の一回換気量は7.2ml~12ml/kgで平均9.35ml/kgであった. カテーテル電極使用による不整脈発生は認めず, また連続刺激による疲労現象もみなかった. 血行動態への影響についての, 陽圧呼吸との比較検討では実験と同様にほとんどのパラメーターがEPRにより改善することを認めたが, AOPに関しては有意差を認めなかった. 臨床例を, 術前の右心負荷の状態で2群に分け(右室圧50mmHg以上と未満)で検討した結果, 右心系負荷群でより著明な効果を得た. 以上からEPRによる術後急性期の呼吸管理の可能なこと, カテーテル電極による不整脈発生の防止法を示した. また血行動態において, 陽圧呼吸管理に比較し良好な血行動態の得られることを確認した. 特に心臓手術後の呼吸管理では, EPRの使用により陽圧呼吸に比べ, 右心系後負荷としての肺動脈平均圧を低下させる. このことは術後血行動態の改善に肺動脈圧の低下が, 大きな影響を与えると思われる右房・肺動脈吻合術の術後呼吸管理などに良い適応となると考えられた. |