アブストラクト(34巻12号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 持続冷却血液冠灌流法の評価
Subtitle :
Authors : 酒井章, 前田肇, 福田幾夫*, 山内栄五郎, 筒井達夫, 岡村健二, 井島宏, 三井利夫, 堀原一
Authors(kana) :
Organization : 筑波大学臨床医学系外科, *筑波メディカルセンター外科
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 34
Number : 12
Page : 2113-2119
Year/Month : 1986 / 12
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 持続冷却血液冠灌流法を評価するため, 特にこの方法で赤血球が果たす役割について検討した. すなわち, (1)赤血球は酸素運搬体としての役割を果たしているか, (2)10℃前後の低温域で赤血球は冠微小循環の阻害因子と成るか, の2点である. 主として2時間以上の大動脈遮断を要した連合弁膜症症例10例を対象とした. 大動脈遮断中, 及び再灌流時の各時点において冠状動静脈血を採取し, 心筋酸素代謝を検討した. 3例については心筋組織炭酸ガス分圧を測定し, 5例の血漿加晶質液もしくは晶質液による心筋保護群を対照に比較検討した. 心筋温を12℃前後に保つと, 心筋酸素消費量は0.37ml/minと著明に抑制された. この温度域では, 心筋に運搬される酸素量の90%以上が, 灌流液に物理的に溶解している溶存酸素により行われていた. ヘモグロビンの酸素親和性は極度に高まり, これを介した酸素交換は無視できる程度であった. 心筋保護時の乳酸摂取率の平均値は60分以降マイナスの値を示した. 再灌流とともに乳酸摂取率はむしろ悪化し, excess lactateの値は心筋が嫌気的環境にあることを示した. この時期, 心筋組織炭酸ガス分圧は増加した. 赤血球を含まない対照群では正常範囲内での変動であり, 持続冷却血液冠灌流法例での再灌流時の嫌気的現象は冠循環障害が生じたためと考えられた. 心筋温を15℃以下に保つ持続冷却血液冠灌流法では, 赤血球は酸素運搬体としてより, むしろ冠微小循環の阻害因子となる可能性が強く示唆された. この方法で, 長時間の心筋保護を可能とする安定した冷却効果と持続的な酸素供給のプラス面を生かすには, 赤血球の流動性を改善する方法が必要である.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords : 持続冷却血液冠灌流法, 心筋酸素代謝, 低体温, 冠微小循環障害
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