アブストラクト(35巻11号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 体外循環が腎糸球体に及ぼす影響についての実験的研究
Subtitle :
Authors : 田畑良宏, 森渥視, 中村良雄, 渡辺和朗, 尾上雅彦, 高橋憲太郎, 山中晃, 加藤弘文, 岡田慶夫
Authors(kana) :
Organization : 滋賀医科大学第2外科
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 35
Number : 11
Page : 2007-2013
Year/Month : 1987 / 11
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 体外循環後にみられる腎機能低下の一因として腎糸球体の障害が推定されるので, これについて雑種成犬による実験を行い, 組織学的検索を行った. 5時間にわたる体外循環により一糸球体当たりの細胞数は77.9±13.5個から124.7±22.0個に増加し, 毛細血管腔径は8.91±0.63μmから3.99±0.77μmに狭小化した. また, PAS染色陽性物質の占める面積は一糸球体当たり1,511±497μm2から3,598±1,071μm2に増加した. 糸球体では細胞分裂像はほとんど見られず, 白血球に特長的なペルオキシダーゼ陽性の細胞が一糸球体当たり0.55±0.72個から34.9±20.4個へと著明に増加した. 従って, 糸球体における細胞数の増加は白血球の浸潤によると考えられる. これらの組織所見は急性糸球体腎炎の初期像に近似しており, 体外循環により急性糸球体腎炎もしくはこれに類似した反応が招来されるものと考えられる. 一方, 体外循環後には血漿蛋白成分のうち補体C3成分とγ-グロブリンとが減少することが判明したので, 蛍光抗体法により, これらの成分の糸球体への沈着状況について検討した. その結果, C3は検出されなかったが, IgGは顆粒集魂状に染色され, メサンギウム細胞に沈着していると考えられた. この所見から, 体外循環によりIgGは凝集, 変性を来し分子量が大きいために一種の網理系細胞であるメサンギウム細胞に取り込まれたものと思われる. 前述の糸球体における白血球の浸潤は免疫グロブリンの白血球走化性因子によるものであろう. 急性糸球体腎炎の概念によれば, これら浸潤白血球には蛋白分解酵素や活性酸素などによる組織障害作用があり, 毛細血管内皮細胞や糸球体基底膜の損傷が考えられ, その結果, 糸球体濾過率の低下がもたらされることも推定される. 以上から著者らは体外循環後の腎機能低下の一因として腎糸球体における免疫グロブリンの沈着とこれに続発する白血球の浸潤を重視すべきであると考える.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords : 体外循環, 血漿蛋白質変性, 白血球浸潤, 急性糸球体腎炎, 腎機能低下
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