Abstract : |
気管分岐部病変の外科治療は腫瘍病変に対するものが大多数を占め, 外傷による損傷の再建例は極めてまれである. 35歳の男性が工事現場でトラックのサイドパネルとクレーン車のバケットの間に胸部を前後方向に挾まれ, 強度の呼吸困難と皮下気腫, チアノーゼを呈し搬送されてきた. 胸部X線及び気管支ファイバースコープにて胸腔内気管断裂と診断し, 受傷後2時間10分に手術を開始した. 開胸後に気管分岐部断裂と判明した. 左主気管支に術野挿管, 右主気管支にはHFJVで換気し, 気管分岐部をBarclay氏手術で再建した. 術後気管切開と約8日間の呼吸管理を要したが, 救命に成功した. 3ヵ月後, 吻合部狭窄に対しYAGレーザーで焼却し症状の軽快をみた. 早期診断により迅速に手術を開始し, 可能な限り気管及び主気管支の切除を避け綿密な再建手術を施行することが救命に必須の要因である. 胸部外傷のなかでも胸腔内気管損傷は極めて重篤な症状を呈し, 早期診断と緊急手術が行われない限り救命も困難である. 最近, 胸腔内気管断裂ないし離断例の治験例の報告が散見されるようになったが, 気管分岐部の新鮮断裂例の報告は, 著者が調べ得た限り内外を通じ見当らない. |