Abstract : |
平素健常な44歳の男子で, 出勤途中急に胸痛と呼吸困難を訴えて発症した. 入院時血圧は80mmHg, 心電図は急性の右心負荷を, 血液ガスは低酸素血症と代謝性acidosisを示した. 直ちに人工呼吸器に接続し, カテコラミンを用いた. 肺血流スキャン及び肺動脈造影で, 左肺動脈主幹部の閉塞と右肺の一部にも血流欠損を認めた. 急性肺動脈塞栓症と診断し, ヘパリン, ウロキナーゼを使用して経過を観察したが改善はわずかであり, 塞栓摘出術にふみきった. 主肺動脈切開により左肺動脈幹部から樹枝状の血栓が摘出された. 術後経過は順調で, その後の下肢静脈造影で左腸骨静脈の血栓閉塞が認められた. 再発防止のため腎静脈下の下大静脈の部分遮断をexternal clipで行った. 下肢静脈うっ血の徴候もなく社会復帰している. 急性肺動脈塞栓症は, アメリカでは年間65~70万人の発生があり, そのうち6~7万人は診断・治療が間に合わずに死亡し, 更に15~16万5千人でその死因に関係があると試算されている1)2). しかし本邦ではその報告は少なく, 臨床医の関心度の低さが原因とみられている3). |