Abstract : |
近年, 平均寿命の延長と肺癌の増加に伴い, また診断技術, 術前術後の管理の向上により高齢者の開胸術を行う機会が増加しつつある. われわれが経験した80歳以上の開胸手術例20例について合併症とその対策について検討した. 術前のPerformance Statusはほとんどの症例が0と1で, 2のものが2例あった. 術後合併症では不整脈(65%), 術後一過性譫妄(35%), 肺炎(25%), 長期間のair leak(20%), 術後出血(10%), 消化管出血(10%)があった. 手術死亡はなかったが入院死亡が4名あり, 2名は肺瘻, 気管支瘻を合併した肺炎により術後3カ月, 5カ月で死亡し, 1名は消化管出血からDICを併発し術後3カ月で死亡した. 他の1名は術後1カ月で胃癌により死亡した. 高齢者の場合, 術後肺炎は難治性で死亡原因となることが多く最も注意すべき合併症である. 加齢に伴い慢性閉塞性肺疾患, 肺気腫が存在する頻度が高くなるとともに喫煙の影響でclosing volumeの増加, 1秒量が低下すると言われている. 閉塞性障害が高度な高齢者では本人の努力にもかかわらず喀痰の喀出が悪くなるため, 喀痰吸引を頻回に行い喀痰の貯溜を予防すべきである. 高齢者の肺は気腫傾向の強い肺や脆弱な肺であるため, 術後のair leakを来さぬように術中は愛護的な操作に心がけ機械縫合器, フィブリン糊などを使用した肺損傷面の修復に努力すべきである. そして術後出血やair leakが長時間持続する場合, 高齢者であっても再手術を考慮すべきである. 高齢者に特徴的な術後一過性譫妄は, 治療に患者の協力が得られなくなるため重要な問題であり, その予防のため薬剤による夜間の睡眠確保, 昼間の覚醒時には家族の協力やテレビ, ラジオによる外的刺激を与えている. |