Abstract : |
人工心肺灌流(以下CPB)時の血液障害につき赤血球の面より赤血球変形能に着目し, CPB中の赤血球変形能の経時的変化を検討すると共に, 術後合併症の発生とCPB終了時の赤血球変形能との関連を比較検討した. また, CPB中の赤血球変形能の障害防止を目的にイヌ灌流実験を行ない, prostaglandin E1及びI2誘導体の投与効果を検討した. 対象は1985年5月より1986年10月までに心大血管の手術で, CPBを施行した27例である. 赤血球変形能の測定は, Reidのmicrofilter法変法を用い, red cell filtration rate(RFR)を算出した. RFRはCPB前値78.5±12.6μl/secであった. その後CPB中は30分73.9±16.6, 60分72.0±16.6, 90分62.7±17.1(p<0.01), 120分59.6±26.0(p<0.01), 150分59.6±21.5(p<0.01), 180分61.3±17.5(p<0.05)となり灌流時間60分を境にCPB前値に比べ有意に低下した. また個々の症例において, 肝, 腎, 心機能障害の発生はCPB終了時RFRが低値かあるいはCPB前値に比べ20%以上低下した例に多かった. 一方, 長時間体外循環施行例においてもRFRの低下が軽度の例では術後機能障害の発生は少なかった. イヌにおける灌流実験において, prostaglandin E1及びI2誘導体の投与は, CPB中のRFRの低下を完全に防止しえた. 赤血球変形能の低下は臓器微小循環の障害を引き起こし, 組織酸素供給を低下させるため, CPB中にRFRを測定することは, 組織微小循環障害の発生の有無を判断し, 術後合併症発生予知に有用な手段である. |