Abstract : |
1987年4月末までの過去4年間に, 虚血大動脈再建時の脳虚血防止対策として, 選択的脳灌流法(SCP), または低体温下循環停止法(HCA)を用い, 胸部大動脈瘤21例に手術を施行した. 動脈瘤の成因は, 解離性大動脈瘤(A型)16例及び動脈硬化症5例であり, このうち7例は切迫破裂あるいは破裂に対する緊急手術であった. 手術時の脳虚血防止の補助手段として, SCP11例及びHCAを10例に用いた. SCP群では, 直腸温25℃で腕頭動脈及び左総頚動脈の両者に計600ml/minの灌流を行った. 平均脳灌流時間は70.4±20.5分であった. HCA群では, 直腸温15℃の脳循環及び体循環を一時停止し, 弓部大動脈再建を行った. なお, 同時にAVR2例及びA-Cバイパス術を1例に行った. 平均循環停止時間は35.2±3.4分であった. このうち2例には脳循環停止時間が45分を超過したためSCPを追加した. 手術成績は術後1カ月以内の早期死は全体で3例(14.3%), SCP群1例(9.1%), HCA群2例(20%)で, 各群間に有意差はなかった. 術後両群ともに脳合併症は認められなかった. なお, 体外循環時間は, HCA群では冷却, 加温に時間を要し, 長い傾向を示した. HCAでは, 脳循環停止の許容時間に限界はあるが, 両者ともに弓部大動脈再建時の脳虚血防止に有用であった. |