Abstract : |
Blood cardioplegia法を用いた臨床例で, 大動脈遮断中の好気性代謝の有無を検討した. 比較的大動脈遮断時間の長い人工弁置換術症例を対象とし, 研究Iでは14例について乳酸・ピルビン酸代謝から, 研究IIでは23例について心筋組織PCO2の変動から好・嫌気性代謝を評価した. 大動脈遮断時間は研究I, IIでそれぞれ126±41.2分, 121±29.8分であった. 大動脈遮断後, 初回は4℃のSt.Thomas液を用い, 以後は原則として20分ごとにBlood cardioplegiaを用いた. Blood cardioplegia液温・心筋温は, 心筋保護回路・局所冷却回路内蔵の体外循環装置を用い, 温度自動制御することにより15~20℃の至適範囲に維持した. 心筋酸素摂取率は, 遮断前, 遮断解除後15分は各々26.8±13.3%, 30.3±10.8%であったが, 遮断中もBlood cardioplegia注入中は14.0±9.3%の酸素摂取を認めた. Excess lactate及び乳酸・ピルビン酸の酸化還元電位による検討では, 遮断中でもBlood cardioplegia注入時32回のsampling中, 13回(41%)に好気性代謝が確認された. PmCO2は, 遮断直後47.0±27.7mmHg, 遮断後60分で49.8±44.9mmHg, 90分で56.2±42.5mmHg, 120分で70.8±64.1mmHgと漸増するにとどまった. Blood cardioplegia注入前後のPmCO2の変動では, 注入中にPmCO2は下降し, 注入終了後もしばらくは引き続いて下降する. その後再び上昇しだすが, 注入効果は20分後まで及ぶことが示された. 心筋温, cardioplegia液の温度・組成・注入間隔を至適にし, 確実な冠灌流に努めれば, 臨床例でも大動脈遮断中, 十分な好気性代謝が得られることが示唆された. |