Abstract : |
Expanded polytetrafluoroethyrene(EPTFE)製人工血管を使用したmodified Blalock-Taussig shuntに際しての合併症の1つとして人工血管よりの血漿漏出の問題が報告されている. EPTFE製人工血管を形態的に観察するとEPTFE製人工血管は, polytetrafluoroethyrene(PTFE)の平均0.46±0.11μmの細いフィブリルが平均5.36±3.50μmの間隔で平行に無数に配列し, 結節で束ねた形をしていた. この5μmの間隔から液体が漏出しないのは, 液体の表面張力及びこの液体とPTFEとの間の接触角と内圧とのバランスに因るものと考えられる. . この場合接触角が90°以下の時は接触角の余弦と表面張力の積が液体を毛細管に引き込む力, つまり人工血管を漏らす力となり, 一方, 90°以上の時は反発力となり人工血管の布目に液が侵入することを防ぐ力となる. PTFEは表面張力56.1dyn/cm以下の液体では接接角は90°以下となるが, ヘパリン加新鮮血では表面張力は56.5dyn/cmで接触角は90.6°であり, 生理的食塩水の表面張力71.6dyn/cm, 接触角114.0°に比し明らかに揆水性が低下し加圧による漏水に対する抵抗性が低いと考えられる. PTFEと血液を接触させると短時間でPTFE表面に蛋白質と思われる物質の吸着が認められ, この状態ではPTFE表面の性質は変化し, より接触角は少なくなり揆水性が低下している. EPTFE製人工血管は力学的時性に方向性があり, 円周方向には加圧により容易に伸展し繊維間隔は拡大する. PTFEは塑性体であるため繰り返し加圧により伸びは累積し血管径は拡大していくものと考えられた. 従って, 漏出は加圧による伸びの累積に起因する繊維間隔の拡大と, PTFE表面への蛋白質の吸着による接触角の低下のためと考えられた. これらの因子を考慮し, 漏出の機構を電子計算機でシュミレーションすると, 繊維密度と漏出の生ずる内圧との間には直線関係を認めた. 以上の結果より使用に際しては不必要に表面を汚染されたり, 過大な圧力を加えないことが血漿漏出防止のために必要である. |