Abstract : |
61歳の男の左上葉肺癌の症例で, 肺分画症はなく, 左肺底動脈が下行大動脈から起始していた. 理学的所見で心雑音や心不全の徴候などはなかった. 胸部レントゲン写真では, 肺分画症を示唆する異常陰影は認められず, 気管支ファイバースコープでは左上葉気管支の腫瘍による閉塞と, 左下葉への正常な分岐を認めた. 左肺動脈造影では下葉のA6はA4+5から分岐し肺底動脈は認められなかった. 左肺底動脈が, 下行大動脈より起始しているのがCTで明らかとなった. 異常肺動脈を結紮切断して肺剔除を施行した. 病理所見では左肺組織は通常の構築を示したが, 異常肺動脈には種々の動脈硬化性変化をみた. この症例において, 異常起始肺動脈を左主肺動脈に吻合する機能温存再建手術は, たとえ他の条件が適切であったとしても, 閉塞性肺動脈の存在のために適応とならなかったであろう. 肺分画症や肺の後天性疾患に伴う異常体動脈とは異なり, 正常な左下葉のみが下行大動脈より血液供給を受け, その他の肺葉は正常の肺動脈により灌流されるまれな奇形を, 左上葉の扁平上皮癌症例で経験したので若干の文献的考察と共に報告する. |