Abstract : |
雑種幼犬を用いて単純超低体温麻酔下に自家心臓移植を行い, 移植経過及び移植心に対するProstaglandin I2(PGI2)投与の効果を血行力学的及び病理学的な面より検討した. エーテルを用いた閉鎖循環麻酔下に全身を氷水に浸漬して直腸温を18℃まで下げた後心臓を摘出して同所性に自家移植を行った. 対象25頭をPGI2非投与群(n=12), PGI2投与群(n=13)の2群に分けて検討した. PGI2投与群では冷却, 復温中にPGI2 1μg/kg/minを投与し, 心停止液中にPGI2 500ng/mlを混入した. なお冷却・復温過程における血行動態を主として検討した前期の12頭(PGI2非投与群5頭, PGI2投与群7頭)では移植操作中に心筋の局所冷却を併用したが, 左室機能を主として検討した後期の13頭(PGI2非投与群7頭, PGI2投与群6頭)では心筋の局所冷却を施行しなかった. 結果, PGI2投与群はPGI2非投与群に比較して冷却・復温速度が有意に速く, 復温過程における心拍出量の回復は速やかであった. また体血管抵抗は各時点においてより低値を示した. また血行動態面からはPGI2投与群はPGI2非投与群に比較し蘇生率が明らかに高く, 心拍再開直後の左室収縮期圧, LVmax dp/dtが有意に高値であった. 病理所見ではPGI2非投与群は心筋細胞の変性, 赤血球の連銭形成などが広範囲に見られたのに対し, PGI2投与群ではこれらの変化は軽度であった. 血清CPK-MB値は移植操作とともに上昇したが両群間に有意差はなかった. 以上の結果よりPGI2は単純超低体温下心臓移植の手術時間を短縮し, よりよい血行動態, 心筋保護のもとに復温蘇生を容易にするものと結論した. |