Abstract : |
症例は, 61歳女性. 1962年(昭和37年)に大動脈弁閉鎖不全症の診断のもと下行大動脈にHufnagelボール弁の移植術を受けた. 23年後, 弁移植部の下行大動脈に動脈瘤を形成し, 瘤の拡大傾向を認めたため, 弁摘出術, 人工血管置換術を施行した. 弁は23年間の経過にもかかわらず, 全く損傷を認めず, 満足すべき状態であった. Hufnagelボール弁の下行大動脈への移植術は文献上世界で151例, 本邦において7例の報告例を認めるにすぎず, また, 23年間もの長期生存の報告例は認め得なかった. 本例は心臓外科の歴史における足跡となり得る1症例と考え報告した. 心臓弁膜症に対して, 1923年, Elliot C.Cutlerが第1例目の手術を施行して以来心臓手術は著しく発展してきた1). 1960年, 重症心臓弁膜症患者に対して, Harkenら2)及びStarrら3)がボール弁による大動脈弁置換, 僧帽弁置換に成功して以来, 人工弁が普及するに至ったが, 既に, 1952年にHufnagelら4)により大動脈弁閉鎖不全症に対して胸部下行大動脈にHufnagel ボール弁移植術が施行された. |