Abstract : |
大動脈遮断末梢側・平均動脈圧(MDAP)と脳脊髄液圧(CSFP)との圧差である脊髄灌流圧(SCPP)と体性感覚誘発電位(SEP)の術中モニタリングを, 胸部下行及び胸腹部大動脈瘤手術症例24例に施行し, CSFP及びSCPPの脊髄虚血に及ぼす影響について臨床的検討を加えた. 補助手段としては一時的体外バイパス法を10例に, 部分体外循環法を14例に用いた. 大動脈遮断中のMDAPは平均72.5±13.0mmHg, CSFP遮断前平均10.1±4.3mmHgより遮断後平均15.0±5.8mmHgに上昇し(p<0.01), SCPPは平均59.8±15.0mmHgであった. 遮断中のSEP虚血性変化は6例にみられ, 消失が4例, 低下が2例であった. SEPが消失した4例中SCPPが各々32, 35mmHgであった2例に術後対麻痺が発生した. SEPが消失した他の2例及び低下した2例では, SEPが低下した時点でMDAPの上昇ないし脳脊髄液吸引を行い, SCPPを60mmHg以上に維持した. この結果SEPが消失した2例では, 大動脈遮断時間が175分と最長であった1例は遮断解除後直後より, 他の胸腹部大動脈瘤の1例は第11肋間動脈を再建した直後よりSEP波形は回復し, SEPが低下した2例ではSCPPを上昇させることにより徐々に波形の回復がみられた. SEPに虚血性変化がみられなかった他の18例ではSCPPは40mmHg以上に維持されており, 術後対麻痺の発生はみられなかった. 以上の結果, 大動脈遮断時に発生する脊髄虚血障害発生の予防には, MDAPの上昇ないし脳脊髄液吸引により, 1.SCPPを40mmHg以上に維持する. 2.SEPの虚血性変化がみられた場合はSCPPを60mmHg以上に維持する, 3.以上の条件下でSEPが急速に低下・消失する時はAdamkiewicz動脈を遮断した可能性が高く, 直ちに重要な肋間・腰動脈を再建することが重要であると思われた. |