Abstract : |
骨格筋, 心筋に特異的に分布するβenolaseを, 最近開発した高感度のenzyme immunoassay法を用い測定した. 対象は僧帽弁置換術18例で, 対照群として胸骨正中切開非開心術7例を用い, 経時的に血中値と尿中排出量を測定した. また, 冠状静脈血値と末梢動脈血値との差を求め, 心筋からの酵素の逸脱量を推定した. 血中βenolase値は, 開心術例では麻酔導入時6.60±3.84ng/mlで, 遮断解除後に急増し, 解除4時間後に116±45.7ng/ml, 解除12時間後に112±48.1ng/mlと二峰性のピークを示し, 約20倍の上昇を示した. その後緩やかに減少するが, 第7病日でも20.7±16.3ng/mlと高値を示した. 一方, 対照群では, 血中βenolase値は麻酔導入時4.86±1.98ng/ml, 第1病日19.6±8.06ng/mlと約4倍の上昇を示した. βenolaseの冠状静脈血値は大動脈遮断解除後0分, 15分, 30分の時点では末梢動脈血値よりも有意に高値を示し, 心筋からのβenolaseの血中への逸脱が観察された. 一方, 骨格筋特異蛋白質であるcarbonic anhydraseIII(CA-III)の血中値は, 開心術例では6倍の, 対照手術例では4倍の上昇を示すが, 両者間に有意差は認められなかった. βenolaseは骨格筋と心筋の両者に存在するため, 血中値の上昇機序には両者の影響を考えなくてはならないが, 上記の結果から開心術中の血中βenolase値の上昇は主に心筋からの逸脱酵素によると考えられた. 血中βenolase値はCK-MBと同様の上昇を示すと共に, 血中からのクリアランスが遅いため急激な下降を示すことがなく, 長期に高値を持続するため, 手術晩期においても心筋障害の程度を診断できると期待できた. |