Abstract : |
弓部大動脈置換の補助手段として, 最近われわれは超低体温下簡単な脳逆行灌流法を考案した. それは超低体温下, 下行大動脈を遮断して下半身のみを灌流した静脈血の酸素飽和度が高く, 脳を低位にし中心静脈圧を高くすることにより, その血液が脳に逆行灌流し, 脳に酸素を供給することである. 今回, その手技を使って手術をした弓部大動脈瘤11例につき臨床的検討をした. 男性9例, 女性2例, 真性大動脈瘤5例, 解離性大動脈瘤5例, 両者の合併1例, 平均年齢63歳であった. 手術アプローチは正中切開4例, 左開胸7例であった. 弓部パッチ逢着が2例, 人工血管置換が9例(上行-弓部2例, 上行-下行2例, 弓部-下行5例)であった. 2例は内胸動脈による冠動脈バイパス術を併用した. 手術時間は517±139分, 人工心肺時間は211±34分, 心停止時間は84±34分, 最低直腸温は15.7±1.1℃であった. 脳循環遮断(逆行灌流)時間は65±9分(52~81分). 脳逆行灌流した血液の酸素飽和度は右房で97.5±2.9%, 頸動脈で68.8±18.8%で測定したサンプルから全例に脳の酸素消費が認められ, 乳酸は消費され, 脳に好気性代謝が行われたことを示していた. 3例に脳障害が認められたが, 逆行性灌流のためではなかった. 他の8例には重大な脳神経症状は認められなかった. 超低体温下, 簡単な脳逆行性灌流による弓部大動脈置換術は弓部に鉗子が不要で, 長時間循環停止の脳を好気性代謝にして保護し, 術式が簡素化され, また, 遠位弓部大動脈瘤のため左開胸をも可能とする有用な手術方法である. |