Abstract : |
術前の左室駆出率(LVEF)が30%以下の高度左心機能低下を伴う冠動脈疾患例における待期的冠動脈バイパス術(CABG)15例と, 緊急CABG10例の計25例を対象とし, 高度左心機能低下例に対するCABGの手術方法, 術中心筋保護法, 及び手術成績につき検討した. 待期例では術前LVEFは9~30%平均22.9%であり, 5例が不安定狭心症(UAP), 5例が心不全を呈し, うち4例にIABPによる手術までの循環補助を必要とした. 緊急例ではLVEFは12~30%平均24.3%であり, 急性心筋梗塞(AMI)の6例を含め, 全例がUAPでIABPを要した. 手術はcold blood cardioplegiaを用いた逆行性持続的冠灌流法(RC-CBCP法)による心筋保護下に完全血行再建を原則とし, 1回の大動脈遮断下にすべての吻合を完了し遮断解除時の再建血行即時開通を行った. グラフト数は待期例で平均2.7本, 緊急例で2.3本であり, それぞれの4例, 1例に内胸動脈グラフトを用いた. 大動脈遮断時間は待期例で平均143.3分, 緊急例で139.1分と比較的長時間であった. いずれの例にもRC-CBCP法に関係した手術周期心筋梗塞(PMI)はなく, 生存例では術後LVEFの悪化した例は1例も認めなかったことなどから満足すべき心筋保護が得られたものと考えられた. 待期例に死亡はなく, 緊急例で陳旧性心筋梗塞にAMIを伴った重症の4例を低心拍出量症候群で失った. 生存例はいずれもNYHAI~II°に復し, 著明な症状の改善が得られ, 低左心機能例における外科治療は極めて有用であった. 以上より重症冠動脈疾患例には特に虚血領域の確実な心筋保護下での完全血行再建が重要であり, RC-CBCP法はかかる際の有用な心筋保護法と考えられた. |