Abstract : |
大腿動静脈部分体外循環を補助手段とした胸腹部大動脈瘤の手術に際して, 肝・腎虚血予防を目的に腹部主要分枝へ体外循環血を選択的に灌流し, その効果を検討した. 対象を部分体外循環のみで灌流したI群, 選択的灌流を施行したII群, 虚血下に行ったIII群の3群に分けた場合, 肝動脈に関してはそれぞれ4例, 8例, 16例, 腎動脈に関してはそれぞれ12例, 11例, 5例であった. III群では, 術後早期の肝細胞障害に引き続く胆汁うっ滞型肝障害を認め, その50%が肝不全を呈し, また, 血清クレアチニンは, 術後1ヵ月にわたり遷延する高値を示し, 他群と比べ有意差を認めた. II群は尿生成能をはじめ肝・腎機能ともI群と同様な保護効果を有し, 肝・腎不全発症率上, 両群間に差を認めなかった. 死因のうち, 他臓器不全が80%を示したが, その発症は大動脈遮断時間に依存し, 90分以上の症例にのみ認められた. 更に, 肝・腎動脈の灌流の有無が強く影響し, 両臓器ともに虚血に曝された症例では60%の発症率, 40%の死亡率を示したのに反し, 両臓器とも灌流された症例では8.3%の発症率, 0%の死亡率と有意(p<0.05)な発症予防効果が認められた. この結果から, 長時間大動脈遮断を要する胸腹部大動脈瘤手術における臓器虚血予防の意義が明らかにされ, 選択的灌流法は有効な一手段となると考えられた. |