アブストラクト(41巻8号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 完全大血管転位症に対する心房内血流転換術(Senning手術,Mustard手術)の長期遠隔成績と問題点
Subtitle :
Authors : 新岡俊治, 今井康晴
Authors(kana) :
Organization : 東京女子医科大学日本心臓血圧研究所循環器小児外科
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 41
Number : 8
Page : 1298-1306
Year/Month : 1993 / 8
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 完全大血管転位症におけるSenning手術, Muatsrd手術は心房位での血流転換となるため術後解剖学的右心室が体循環系心室となる. そのため右心室が長期間体心室として機能を持続しうるか否か, が術後遠隔期に問題となる. 教室で1970年以降に施行した74例のSenning手術(S群), 63例のMustard手術(M群)を対象とし, 遠隔生存した114例に対して追跡調査を行った. actuarial methodによる遠隔期実測生存率, 再手術非発生率, 遠隔期における心調律, 心胸郭比, 運動能, 核医学による運動負荷に対する両心室機能, 遠隔期三尖弁逆流の頻度, 肺高血圧症例の遠隔期肺血管抵抗値の推移, などを検討した. 病型はd-TGA I型72例, II型38例, III型20例, IV型4例, DORV型3例であった. 手術死亡はS群3例, M群20例(16例は1975年以前の症例)であった. 遠隔期実測生存率はS群12年90.1%, M群12年64.1%, 22年64.1%で12年の時点で有意にS群が優っていた. 遠隔死亡原因として突然死(リズム死)(7例), 三尖弁逆流を伴う解剖学的右心室不全(5例)を多く認めた. 再手術は11例に認め, PVO, 三尖弁逆流が問題となった. 教室では心房内血流転換術後の解剖学的右心不全に対して肺動脈絞扼術による左心室トレーニング後にJatene手術を施行し全例で良好な結果を得た. 遠隔期の心調律はS群92%, M群70.8%で洞調律を維持していた. PR時間はS群0.14±0.03秒, M群0.17±0.03秒でM群でより延長し, 不整脈もM群に多く認めた. 心胸郭比は遠隔期平均S群50.3%, M群53.1%で肺高血圧残存症例を除くとS群49.2%, M群50.4%と極めて良好であった. しかし, 術後10年以上経過した症例73例中4例に急激なCTRの増大を認めた. 運動能に関しては全例日常生活に支障はなく, 9割の症例が学校の体育の授業に参加していたが, 運動負荷試験では正常児に比して運動能は劣っていた. 遠隔期17例に運動負荷による心機能の変化を核医学検査を用いて検討した. RVEFは運動負荷によって変化しなかったが, LVEFは有意に増加し解剖学的左心室の優位性が示唆された. 遠隔期の中等度以上の三尖弁逆流は全体の12.3%に認めた. 肺血管抵抗が術前10単位以上の症例は23例に認め内12例に姑息的心房内血流転換術を施行し, 7例の遠隔生存を得ている. 遠隔期の心カテーテルでは有意に肺血管抵抗と肺動脈圧の低下を認めたが, 絶対値は依然として高い値を示した. 以上のように心房内血流転換術の遠隔成績はおおむね良好であるが約10%に三尖弁逆流, 解剖学的右心室不全を認め, これらに対しては, 早期に左心室をトレーニングし解剖学的左心室が体循環系心室となるようにJatene手術に変換すべきである.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords : 完全大血管転位症, 心房内血流転換術, 長期遠隔成績, 解剖学的右心室不全, Jatene手術
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