Abstract : |
心房中隔欠損症(ASD)手術の危険性は現在極めて少なく, 合併症の発症は患者治療者双方にとって不測の事態である. しかし高齢者のASDでは時に術後塞栓症を合併し, 当科においても2例の脳梗塞症例を経験した. ASD術後塞栓症発症の危険因子として心機能低下・心房細動・パッチや縫合糸などの左房内異物が考えられるが, 左房拡大に伴う左房内血流停滞を術後血栓形成の一因と考え, 1980年以降に当科で手術施行した合併症のないASD87症例を対象として加齢に伴う左房容積の変化につき検討した. 年齢(X)と左房容積係数(Y)との間にはY=16.5+1.1X, r=0.668の有意な相関関係が認められた(p<0.001). 術後脳梗塞発症の2例の左房容積係数はそれぞれ171.7, 190.8ml/m2と特に大きかった. 前者は洞調律直接縫合例であり, 後者は心房細動パッチ閉鎖症例であった. また肺動脈圧・心胸隔比ともに左房容積との間に有意な相関を認めた. このため元来高齢者ASD術後塞栓症の発症危険因子としてあげられてきた肺高血圧・心胸郭比増加は加齢に伴う左房拡大に関連するものと考えられた. 今回の検討より著明な左房拡大を伴う症例では洞調律であっても直接縫合例であっても術後弁置換症例に準じて厳重な抗凝固療法を施行する必要があると考えられた. |