Abstract : |
体外循環中にアプロチニンを投与することによって出血量減少効果がみられるが, その機序は明らかでなく, 至適投与法及び投与量も定まっていない. われわれは, 冠状動脈バイパス術25例において体外循環充填液にアプロチニン30,000KIU/kgを注入し, 更に体外循環開始時より終了までアプロチニン7,500KIU/kg/hを持続点滴し, 出血量減少効果を同数の対照群と比較検討した. また術中, 術後の血液凝固系及び線溶系の諸指標を測定し, アプロチニンによる出血量減少の機序を検討した. 術中出血量, 術後6時間の出血量, 総輸血量はいずれもアプロチニン群が有意に少なく, 本投与法の有効性が認められた. 血小板数, 活性化凝固時間, トロンビン‐アンチトロンビンIII複合体は両群間に差はなく, アプロチニンは血小板及び血液凝固系には大きな影響を与えないと考えられた. 体外循環中, α2プラスミンインヒビターはアプロチニン群が有意に高値となり, プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体, D-ダイマーはアプロチニン群で有意に低値となった. 以上よりヘパリン投与にもかかわらず, 体外循環により凝固系が亢進し, それに伴う線溶系の亢進をアプロチニンは抑制した. アプロチニンの出血量減少効果は, 主にその線溶系抑制効果によると結論された. |