Abstract : |
1979年5月から1991年11月までの約12年間に26例の大動脈基部置換術を行った. 術式としてBentall手術(15例), Cabrol手術(11例)を採用したが, 両群間に年齢や病因の差はなかった. 人工血管末梢側と大動脈の吻合は全例で内挿法を用い, 人工血管は大動脈瘤壁で被覆した. Bentall手術例とCabrol手術例では手術時間, 大動脈遮断時間のいずれもCabrol手術例が有意に短かった(p<0.05, p<0.01). 手術死亡はBentall手術例ではなく, Cabrol手術例では1例経験した. 遠隔期死亡はBentall手術に2例(感染に起因する末梢側吻合部縫合不全からの出血死:1例, 感染した被覆瘤壁の右房穿破に伴う心不全死:1例)認められたが, Cabrol手術例には認めなかった. 累積生存率はBentall手術例で86.7%(最長12.8年生存), Cabrol手術例で90.9%(最長5.1年生存)であった. 遠隔期合併症は, Bentall手術例に多くみられ, その内容は冠状動脈吻合部縫合不全及び仮性動脈瘤, 末梢側吻合部縫合不全, 被覆瘤壁内血腫の残存などであった. 一方, Cabrol手術例では吻合部位の仮性動脈瘤発生はみられず, 2例に被覆瘤壁内血腫の残存及びうち1例に末梢側吻合部縫合不全を認めた. 遠隔期の合併症発生頻度はCabrol手術例に有意に低かった(p<0.05). 大動脈基部全置換術式としてBentall手術もCabrol手術も手術成績に差はなく優れた手術術式であるが, Cabrol手術の方がBentall手術に比べて技術的に簡便で, 術後合併症が少ないなどの利点がみられた. ただCabrol手術においても被覆瘤壁内血腫の残存がみられ, 人工血管圧迫や感染など重篤な合併症を引き起こす要因と考えられた. |