Abstract : |
遠心ポンプを用いた一時的バイパス下に手術を行った胸部下行大動脈瘤33症例を対象とし, 腎臓及び脊髄の虚血障害の発生予防に必要な灌流量について検討した. 疾患の内訳は胸部真性動脈瘤16例, 胸腹部大動脈瘤7例, 解離性10例であり, 手術は31例に人工血管置換術, 2例に瘤切除後にパッチ閉鎖が施行された. Bio-pumpは全例定常流モードで使用し, 脱血は30例が左房脱血のほか上行大動脈1例, 下行大動脈中枢側が2例, 送血は大腿動脈29例, 大動脈末梢側が4例であった. 熱交換器と人工肺は全く使用せず, 初期の症例を除く23例では全身heparin化は行わなかった. 一時的バイパス時間は42~205分(平均90分), 大動脈遮断時間は25~182分(平均77分), 最大灌流量は0.5~3.5L/min(平均2.2L/min)であった. 大動脈遮断中の下肢灌流圧は全例で70mmHg以上であったが, 灌流と下肢平均圧及び上肢下肢間の圧較差には一定の傾向が得られず, 個々の症例により灌流量は変化した. 一方, バイパス中の尿量は灌流量の増大と共に増加し, 正の相関がみられた. A群(灌流量<40ml/kg/min, 23例)とB群(灌流量≧40ml/kg/min, 10例)に分け, 術後腎機能の推移をみると, BUN, creatinineともA群で術後一過性の上昇がみられたが, B群では正常範囲内であり有意に低値をとった. A群で術後腎不全2例, 不全麻痺2例がみられたが, B群ではこれらの合併症はみられなかった. 胸部下行大動脈瘤手術における遠心ポンプを用いた一時的バイパス法においては下肢の灌流圧よりもむしろ灌流量に重点をおくべきであり, 術後の腎及び脊髄虚血障害防止のためには最大灌流量40ml/kg/min以上が必要と結論された. (日本胸部外科学会雑誌1994;42:879-885) |