Abstract : |
超低体温下逆行性脳灌流法における灌流圧の脳組織代謝に与える影響について, 雑種成犬を用い実験的検討を行った. 大腿動脈送血, 上下大静脈脱血による体外循環にて鼻咽頭温20℃まで冷却を行った後, 両側顎静脈送血モデルにて60分間の逆行性脳灌流を行った. 外頸静脈圧を灌流出として流量を制御し, それぞれ10, 20, 30mmHgに維持した3群(各n=5)で比較検討を行った. 脳組織内血流量は灌流圧の上昇に伴い10mmHg群(8.2±1.3ml/100g/分), 20mmHg群(15.7±2.8ml/100g/分), 30mmHg群(18.3±0.5ml/100g/分)で有意に増加することが観察された. cerebral excess lactateは, 10mmHg群(1.5±2.2mmol/l)では嫌気性代謝を示したが, 20mmHg群(-1.02±1.4mmol/l)及び30mmHg群(-1.42±1.9mmol/l)は好気性代謝を示した. 脳組織内ATP濃度は10mmHg群(0.072±0.02μmol/g)と20mmHg群(0.124±0.05μmol/g)との間に有意差を認めたが, 20mmHg群と30mmHg群(0.156±0.04μmol/g)との間には有意差を認めなかった. 脳脊髄液圧は, 10mmHg群(7.3±1.1mmHg), 20mmHg群(16.8±1.6mmHg), 30mmHg群(25.5±3.4mmHg)と灌流圧の上昇に伴い有意差をもって上昇した. 脳組織内水分量は10mmHg群(75.7±0.9%)と20mmHg群(76.6±1.8%)との間には有意差を認めなかったが, 20mmHg群30mmHg群(78.6±0.7%)との間には有意差を認めた. これらのことから, 超低体温下逆行性脳灌流法においては, 好気性代謝が維持され, 且つ脳浮腫の程度が低いことから, 20mmHgの灌流圧は適当であると考えられた. (日本胸部外科学会雑誌1994;42:1307-1314) |