Abstract : |
開心術後患者30例を対象に術後早期における酸素の需要と供給の関係について検討した. 全例スワンガンツカテーテルを挿入し心拍出量, 圧測定, 動脈血・混合静脈血のガス分析を術直後より6時間毎に施行した. 各パラメーターより酸素供給量(DO2), 酸素消費量(VO2), 酸素摂取率(ER=VO2/DO2)を算出し, 周術期諸因子との相関を統計学的に解析した. 術後の酸素消費量に関しては, VO2=0.132×DO2+87.9(R=0.616, p<0.001), ER=-0.0385×DO2+51.8(R=-0.722, p<0.001)の式で示される結果が得られ, 供給量に極めて依存した関係にあることが判明した. 一般に十分に酸素が供給されている生理的条件下(DO2>330ml/min/m2)では酸素消費量は一定で, ERも35%を越えないことが知られているが, 開心術後はDO2が420を下回るとERは35%を超え, 生理的範囲内の酸素供給量でも生体は酸欠状態にあることが示唆された. この酸素供給量に直接影響を与える因子は心係数(CI)とヘモグロビン(Hb)値である. ER=-6.05×CI+51.6(R=-0.592, p<0.001)の結果からも, CIが2.01/min/m2以下になるとERは40%を超え, 組織は飢餓状態に陥ることが示された. またHb値との間にも, ER=-2.02×Hb+56.7(R=-0.414, p<0.001)の相関関係が成り立ち, 術直後の貧血は組織の酸素摂取に大きな障害をもたらすことが確認された. 特にERと強い相関を示した因子は混合静脈血酸素飽和度(SvO2)であった(ER=-0.872×SvO2+91.9, R=-0.969, p<0.001). ER=100×(1-SvO2/SaO2), SvO2=SaO2(1-ER/100)の理論式からも導かれるようにSvO2は, 酸素利用の指標とされているERの端的な臨床的パラメーターになり得ることが明らかになった. (日本胸部外科学会雑誌1995;43:196-199) |