Abstract : |
1989年1月より1993年12月までに教室で経験した孤立性大動脈弁閉鎖不全(AR)83例中, 38例(男女比は32対6, 年齢は59歳)が弁の変性によるものであった. 術前のNYHA心機能分類, 心胸郭比, 心係数, 左室拡張末期圧は各々2.6, 57%, 3.1L/min/m2, 18mmHgで, 大動脈造影による逆流はSellers分類II/III/IV度, 各々2/24/12例であった. 心エコーでの左室内径はDd/Ds=63/42mm, %FS=33%で, 7例が大動脈弁尖の逸脱を合併していた. 全例AVRを行い, III度以上のMRを合併した6例に僧帽弁置換術(MVR)を併施した. 切除大動脈弁尖は菲薄化し透見しうるほど脆弱で, 9例に弁尖の穿孔, 2例に特発性弁尖断裂を認めた. MVRを併施した6例の僧帽弁は腱索の断裂, 過伸展各3例で, 弁尖の菲薄化した症例はなかった. 病理組織学的には弁尖全域に及ぶ酸性ムコ多糖類の貯留を認めたが, 炎症性の細胞浸潤や血管新生像はなかった. 粘液変性によるARは組織の脆弱化に由来するので, 手術では弁輪組織の補強に十分な配慮が必要である. 耐術例の中期予後は良好で明らかな人工弁縫合不全は経験していない. 僧帽弁をはじめ他弁の変性の進行など未解明の問題があり長期の厳重な経過観察が必要である. (日本胸部外科学会雑誌1995;43:951-955) |