Abstract : |
体外循環時脳灌流の安全基準を設定する目的で, 胸部大動脈瘤の症例を中心に近赤外分光法を用いて体外循環時の脳組織の酸素代謝を直接無侵襲, 簡便にモニターする試みを臨床的に検討した. 全症例12例の検討では平均動脈圧60mmHg以上で良好な脳組織酸素化レベルが保たれていた. これに温度条件を考慮に入れると直腸温25℃以下では灌流圧50mmHg以上, 25℃以上では73mmHg以上で体外循環前値と同等かそれ以上の脳酸化ヘモグロビンレベルが得られていた. 一方, 直腸温25℃以下では脳酸化ヘモグロビン, 脳血液量ともに40mmHg以下で急激に減少しており, 脳血管自動調節機能が25℃以下の低体温下においても40mmHg位まで存在することが推測できた. 5例の選択的脳分離灌流において脳血液量については0.5l/min以上で, 酸化ヘモグロビンに関しては0.4l/min以上で良好な酸素化レベルが得られた. 超低体温循環停止中(18℃)においては酸化ヘモグロビン量は経時的な減少を続け, 超低体温下においても脳酸素代謝が進行していることが示唆された. 無侵襲, 簡便に脳組織内の酸素化レベルを直接, 連続的にモニタリングすることのできる近赤外分光法は体外循環後脳障害の発生予防に今後極めて重要な役割を果たすと考えられる. 近い将来, 圧, 流量, 温度, ヘモグロビン濃度等の多変量解析による体外循環時の脳灌流における安全基準の確立が待たれる. (日本胸部外科学会雑誌1995;43:1107-1114) |