Abstract : |
遠位弓部大動脈瘤の外科治療は, 到達方法と補助手段の選択の問題点があり, いまだに手術成績が不良である. われわれは, 遠位弓部大動脈瘤10例に対して, 左開胸下超低体温循環停止法を用いて, 人工血管置換術を行い, 良好な結果を得た. 体外循環方法は, 左大腿動脈から送血し, 肺動脈主幹部と左大腿静脈又は左房から脱血し, 脳波が平坦になるまで冷却した. 脳保護の目的で, チオペンタール, 塩酸ニカルジピン, グリセオールを投与した後に, ヘッドダウンとし, 循環を停止した. 人工血管の中枢側吻合終了後, 動脈瘤の末梢側の大動脈と, 中枢側吻合を終了した人工血管を遮断し, この人工血管に吻合しておいた人工血管側枝と大腿動脈から送血して循環を再開し, 復温過程中に末梢側吻合を行った. 体外循環中の脳代謝モニターとして, 脳波の他に, 内頸静脈酸素分圧を用いた. 手術成績は, 病院死亡はなく, 脳合併症も器質的障害を認めたのは, 海馬梗塞による記銘力障害1例と, 頭頂葉の小梗塞による一過性の片麻痺1例であった. 遠位弓部大動脈瘤に対する人工血管置換術に, 左開胸下超低体温循環停止法は有用であったと考える. (日本胸部外科学会雑誌1995;43:1115-1119) |