Abstract : |
脳保護法として脳のみを16℃の酸素加血液で灌流する選択的脳冷却灌流法を用いて42例の胸部大動脈再建手術を行い, その脳保護効果と手術成績について検討した. 実施した手術は上行大動脈置換9例, 上行・弓部大動脈置換12例, 弓部大動脈置換18例, 弓部・下行大動脈置換3例であり, 平均体外循環時間は191分, 平均脳灌流時間は93分であった. 緊急手術が22例(52%)あり, そのうち死亡は腸管壊死(2例), 多臓器不全(2例)の計4例(18.2%)であった. 待機手術では20例中, 冠状動脈塞栓症により1例(5.0%)を失った. 明らかな脳障害は術前より陳旧性脳梗塞を合併していた高齢者(85歳)の緊急弓部置換術の1例にのみ認められた. この例は意識の覚醒が得られないまま多臓器不全のために死亡した. 他には3時間以上の長時間脳灌流を要した例においても明らかな脳障害の発生はなく, 生存例はいずれも神経障害を残すことなく退院して日常生活に復帰した. 本法は緊急時にも容易に対応できる簡便な方法であり, 臨床的に優れた脳保護効果を示した. 今回の臨床例の検討より, 選択的脳冷却灌流法は胸部大動脈再建手術時の優れた脳保護法の1つと考えられた. (日本胸部外科学会雑誌1995;43:1605-1610) |