Abstract : |
ラットの脳において, 核磁気共鳴法31P-Magnetic Resonance Spectroscopy(MRS)の手法を用いて, 一過性全脳虚血とそれに引き続く再灌流時における脳エネルギー代謝動態及び細胞内pHを測定した. 温度は20℃及び37℃で, 虚血時間は各々30分及び60分にて検討した. ラットを胸骨縦切開にて開胸し, 両側鎖骨下動脈を結紮, 両側総頸動脈にバルーン式オクルーダーを装着して一過性全脳虚血モデル(開胸法)を作製した. 20℃までの冷却は氷嚢による表面冷却法にて行った. 測定項目は, クレアチニンリン酸(PC)及びATP濃度で, 各5分間毎の積算とし, 各濃度の虚血前値からの変化率を算出した. また, 無機リン(Pi)の化学シフトから細胞内pHを算出した. 虚血30分にて, PCは20℃群では前値の58±4%であったのに対し, 37℃群では36±4%まで減少した. ATP濃度は20℃群では前値の73±5%に対し37℃群では52±4%まで減少した. 細胞内pHは, 20℃群では6.48までの低下に対し, 37℃群では, 6.08まで低下した(以上p<0.01). 虚血60分にて, PCは20℃群で前値の52±5%に対し, 37℃群では33±6%, ATPは20℃群62±6%, 37℃群36±6%であった. 細胞内pHは20℃群では6.38までの低下に対し, 37℃群では5.80まで低下した(以上p<0.01). 37℃, 60分虚血群におけるPC, ATP, pHは再灌流後も回復は認められなかった. 以上の結果から, 20℃の低温は, 30分ないし60分の全脳虚血において, 高エネルギーリン酸化合物及び細胞内pHの維持の面で, 脳保護効果を有することが示された. (日本胸部外科学会雑誌1996;44:1-8) |