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近年, 手術手技, 補助手段の向上に伴い, 弓部大動脈置換術の手術成績は向上したが, 術後感染を基盤とした多臓器不全の発症が現在の大きな問題と考えられる. そこで, 弓部大動脈置換術5例（A群）の細胞性免疫能を検討し, 冠状動脈バイパス術10例（B群）のそれと比較検討した. A群のIL-2産生能は, 術前7.7±4.4units（U）が術後有意に低下し, 術後1日目は全例測定下限の0.8U以下となり, 術後3日目も1.5±1.6Uと, B群に比しても有意に低下した. A群のNK細胞活性も, 術前28.6±16.7%が術後1日目10.6±6.7%, 3日目10.0±6.7%, 14日目11.0±5.8%と有意に低下し, B群に比しても有意に低下した. リンパ球サブセットにおけるCD3陽性細胞率（CD3＋）は術後全経過を通じて, 有意にA群で低値であり, CD4陽性細胞率（CD4＋）は術後1日目, 3日目共に有意にA群で低値であった. また, IL-2産生能とCD3＋, CD4＋との間には, 有意な相関関係が認められた. すなわち, A群におけるIL-2産生能の術後高度低下には, CD4＋の低下が大きく影響すると考えられた. 弓部大動脈置換術後の細胞性免疫能は, ヘルパーT細胞減少によるIL-2産生能の低下, NK細胞の活性化の低下を伴い, 高度の不全状態となっていることが示された. また, この臨床的原因として, 大量の他家血輸血, 人工心肺や低体温中の臓器灌流不全による組織傷害などが考えられた. （日本胸部外科学会雑誌1996；44：31－37） |
