Abstract : |
塩基性アミノ酸であるL-arginineはguanidino基を有し, nitric oxide(NO)を産生可能である. また, L-arginineなどの塩基性アミノ酸は膜電位依存のy+transporterを介して細胞内へ入り細胞内陽イオンに変化を及ぼしている可能性がある. そこで今回われわれは虚血直前に投与されたL-arginine(1mM, :L-arg群)の心筋に及ぼす影響を心機能, エネルギー代謝について対照群と比較検討した. 35分間の虚血の後60分間再灌流した. 再灌流後対照群ではoxygen wastingを呈したのに対し, L-arg群では酸素消費量が障害され(0.67±0.11→0.51±0.04ml O2/min/gm dry wt), それに伴い高エネルギーリン酸量も低下した(再灌流後30分のATPの虚血前値に対する残存率:61±6.4vs98±9.3%). また, 容量‐拡張期圧関係はL-arg群で左室コンプライアンスの低下を示し, 脈圧, +dp/dt, -dp/dtもL-arg群で有意に低下した. L-arg投与により虚血再灌流直後のLactate量は対照群の約5倍にまで上昇した(13±3.5vs63±7.3ml/min/grn dry wt). 再濁流後のacetylcholineに対する血管の反応性は対照群で血管収縮性に作用したが, L-arg群では全く反応が見られなかった. L-arginineの投与により酸素代謝が障害され嫌気下解糖が促進し, その結果最終代謝産物であるLactateの細胞内蓄積を招く. そして虚血後の再灌流初期においても酸素消費は抑制され, エネルギー回復は遅れ, 心機能回復も極めて不良であった. L-arginineがNOを産生し, superoxide anionとの反応によりperoxynitrite anion(ONOO‐)を生じ, 結果としてOHが産生され心筋障害を起こしている可能性が示唆された. また, L-arginineが細胞内の陽イオンバランスを変え虚血再灌流障害を増幅している可能性もあり, 今後の検討を要すものと思われた. |