アブストラクト(44巻6号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : ultra-short acting β blockerを用いた心拍動下冠状動脈バイパス術の経験
Subtitle :
Authors : 宮本裕治, 高橋俊樹, 門場啓司, 谷口和博, 今川弘, 澤芳樹, 正井崇史, 松田暉
Authors(kana) :
Organization : 大阪大学医学部第1外科
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 44
Number : 6
Page : 801-805
Year/Month : 1996 / 6
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 軽度低体温体外循環下に, ultra-short acting β blocker (esmolol)を投与して, 心拍動を減弱させ心拍動下に冠状動脈バイパス術を行う新しい術式を試みたので報告する. 対象は1993年12月から1994年5月までに行った成人冠状動脈バイパス症例のうち無作為に選んだ7例である. 年齢は51~68歳, 術前診断はすべて安定狭心症であった. 体外循環の維持血液温は34℃~35℃で, 灌流量は2.2~2.6l/min/m2とし, 灌流圧を50mmHg以上に維持するように努めた. esmololは10~35mg/kgをbolus投与し心拍数が低下後は1~4mg/kg/minを持続投与し, 必要に応じてbolus投与を追加した. 心拍動が減弱後, 吻合予定部の中枢側及び末梢側をテーピングして冠血流を遮断してから冠状動脈を切開し, 通常の吻合を行った. グラフト本数は3~5(3.6±0.9)本で, 内胸動脈(ITA)11本, 胃大網動脈(GEA)6本, SVG 8本の計25本であった. 吻合部位は左冠状動脈前下行枝(LAD)10本, Cx 7本, 右冠状動脈(RCA)8本で動脈グラフトのみによる再建は4例であった. esmololの投与により, 平均心拍数は78±12bpmから, 投与後5分で49±7bpmへ有意に(p<0.01)低下し, 心拍動は微弱となり, 吻合操作は心後面を含めどの部位でも可能であった. 術後大動脈内バルーンピング(IABP)を2例に要し, 1例を誤嚥性肺炎で失った. 術後のmaxCPK-MBは, 術中に外科的に心筋を損傷した症例を除くと平均17.4±9.7IU/Lと低値であった. 術後1カ月目の造影検査で, ITA 1本, GEA 1本, SVG 1本が閉塞しており全体の開存率は88%(22/25)であった. 今回の無作為に選んだ7症例の経験からではesmololの至適投与量はいまだ明らかでないが, 本術式は冠状動脈バイパス術を行う際に, 体外循環が必要で且つ大動脈遮断を回避するのが望ましい症例などにおいて有用な新しい術式になり得ると考える.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords : 心拍動下冠状動脈バイパス術, ultra-short acting β blocker, esmolol, 軽度低体温体外循環
このページの一番上へ