アブストラクト(44巻9号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 心浸漬保存のもつ問題点とその対策
Subtitle : 原著
Authors : 竹内功, 高嶋一敏, 棟方護, 小野裕逸, 福井康三, 鈴木宗平, Pedro J del Nido*
Authors(kana) :
Organization : 弘前大学医学部第1外科, *Department of Cardiac Surgery, Children's Hospital and Harvard Medical School
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 44
Number : 9
Page : 1691-1697
Year/Month : 1996 / 9
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : Warm heart surgeryが行われるようになってきたとは言え, 局所冷却法を併用した超低温心保存が臨床開心術においては今なお主流である. しかし, 温度の上昇によりiced slushは溶解し心筋は水中に浸漬保存された状態となる. 一般に水中では膜の透過性は高く, 虚血時には更に分配係数, 拡散能は増しイオン分布の不均衡を介して心筋障害を生じる可能性がある. そこで今回Langendorff灌流心モデルを用い虚血中の保存を空気保存, 水溶液内保存とに分け, それらの心機能に及ぼす影響を主にエネルギー代謝の面から検討した. 灌流心を保存方法の違いから4群に分けた. 空気保存群を対照群とし, 水溶液保存群を保存液の違いからI(Krebs-Henseleit(K-H)液)II(K-H+hexamethylamilo-ride(20μM)液)III(histidine buffer液)に分けた. 37℃30分間の虚血後, 30分間再灌流し, その間の細胞内pH, phosphocreatine(PCr), アデノシン三リン酸(ATP)を31P-NMRにより測定し虚血前後の心機能と比較検討した. 対照群の虚血中の拘縮発生率は33%で, 再灌流30分後の心機能回復率は74%であった. これに対しI群の虚血中拘縮発生率は80%と高率であり再灌流後の心機能回復率は46%と有意に不良であった. Na+/H+チャンネルブロッカーであるhexamethylamilorideを加えても心機能回復率, エネルギー状態は改善しなかった. 虚血後I, II群ではPCrは直ちに低下し, その後PCrの消失に伴ってATPが低下した. 再灌流後PCrの回復は良好であったが, ATPは低下したままであった. 一方III群では, 虚血に伴って蓄積する細胞内のH+をhistidineにより細胞外へ緩衝することによって心筋細胞エネルギーのみならず心機能回復も良好であった. 以上の点から虚血時に心筋が水溶液中に保存されることによって心筋の虚血障害が増幅されている可能性が強く, これは主に急激な細胞内アシドーシスによるH+の蓄積とそれに伴う心筋細胞内エネルギーの低下が原因と考えられた. (日本胸部外科学会雑誌1996;44:1691-1697)
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords : 局所冷却法, 心筋細胞障害, 拡散能, 心筋虚血, 水素イオン(H+)
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