Abstract : |
1982年5月から1989年11月までの間に, 血栓曠置術を14例に施行した. 原疾患別では解離性大動脈瘤7例, 真性胸部大動脈瘤6例, 真性胸腹部大動脈瘤1例であった. 術式は, 上行大動脈-腹部大動脈(腹腔動脈分岐部より中枢側)バイパス12例, 下行大動脈-下行大動脈バイパス1例, 両側腋下動脈-腸骨動脈バイパス1例であり, 人工血管は径16~22mmを使用し, 永久遮断を瘤の中枢側にのみ行ったもの9例, 瘤の末梢側にも行ったもの5例である. 病院死5例であり, 死因は瘤破裂2例, 心不全, 心・呼吸不全, 肝・腎不全が各1例である. 遠隔死は4例であり, 死因は瘤破裂3例, 心不全1例であった. 現在, 5例は長期生存中であり, 術後観察期間は7年8月~16年8月(平均14年4月)である. 遠隔症例では空置瘤の血栓化は認めなかったが, 長期生存例においては空置瘤はいずれも血栓化していた. しかし, 瘤の中枢・末梢の両側永久遮断によっても必ずしも空置瘤の血栓化が起きている訳ではなかった. 今回, 長期生存例について新たに遠隔調査を行ったが, いずれも後負荷増大による左心負荷及び高血圧を来していた. 血栓曠置術は, 術前早期には空置瘤破裂, 遠隔長期まで生存している場合でもバイパスによる後負荷増大から様々な病態を来し, また隣接肺への穿孔や腹部主要動脈の閉塞を起こすこともあるため, 全身状態が極めて不良な症例や, 肺との高度な癒着症例に限定されるべきであると考えられた. (日本胸部外科学会雑誌1996;44;1749-1752) |