Authors : |
高野環, 深谷幸雄, 恒元秀夫, 中野博文, 黒田秀雄, 天野純, 疋田仁志*, 神頭定彦*, 野原秀公** |
Abstract : |
大動脈遮断鉗子による大動脈壁の障害を定量的に評価するために, 遮断部位の病理組織学的変化を観察し, 遮断の強さと障害の関係について検討を行った. 1993年8月から1994年4月の間に当科で手術を施行したStanford A型解離性大動脈瘤6例を対象とし, 手術の際に切除した大動脈壁を大動脈遮断鉗子の接する部位によって4切片に切離し, それぞれの部位別に病理組織学的変化を光学顕微鏡にて観察した. 更に大動脈遮断鉗子の各部位における荷重を測定し, 遮断の強さと病理組織学的障害の関係について考察を行った. 大動脈壁障害は病理組織学的に3つの段階に分けられ, 最も軽度の障害は中膜を構成する各線維間間隙の狭小化(以下grade1)で, 6症例24部位中18部位(75%)で認められた. 中等度の障害は中膜の各線維の断裂, やせ細り, 平滑筋細胞の胞体の縮小, 核の不整形化(以下grade2)で, 14部位(58.3%)で認められた. 最も高度な障害は, これら中膜の障害に加えて内皮細胞の脱落と内膜から中膜に及ぶ断裂(以下grade3)で, 1部位のみ(4.17%)で認められた. これらの障害の出現頻度より, 病理組織学的障害はgrade1からgrade3へと強くなっていくものと考えられた. また, 遮断鉗子の部位別の荷重は鉗子先端部で1.0kg, 鉗子中央部で1.9kg, 鉗子基部で3.6kgと鉗子の先端より基部にいくに従って大きくなり, 障害の程度は鉗子先端部ではgrade1の障害が最も多く, 中央部ではgrade1とgrade2の障害がほぼ同数で, grade3の障害は基部のみで認められたことより, 遮断の荷重が増加するにしたがって組織学的障害が増強するものと考えられた. |