アブストラクト(45巻1号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 単純虚血心及びcardioplegia施行心に対するischemic preconditioningの心筋保護効果に関する検討
Subtitle :
Authors : 大谷肇, 川崎寛, 二宮英樹, 木戸正訓, 川口英樹, 大迫茂登彦, 加戸靖, 今村洋二
Authors(kana) :
Organization : 関西医科大学胸部外科
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 45
Number : 1
Page : 23-30
Year/Month : 1997 / 1
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 長時間虚血に先行する短時間の虚血(Ischemic preconditioning;IPC)は引き続く長時間の虚血に対する耐性を獲得することが知られている. 今回, われわれはcardioplegia(CP)によって導入された虚血心筋においてIPCが心筋保護効果を発揮するか否かを検討した. ラット摘出心をKrebs- Henseleit重炭酸(KHB)緩衝液を用いてLandendorff灌流した. IPCは1分間の常温虚血と5分間の再灌流を5回繰り返した. 次に心臓を25分間の常温虚血においた単純虚血心と, St.Thomas'Hospital 液を用いて心停止を導入した後40分間の常温虚血としたCP施行心に分類した. IPC施行後冠灌流量は有意に増加したが, 心拍数, left ventricular developed pressure(LVDP)及び左室拡張末期圧(LVEDP)に有意な変化はなかった. 単純虚血後電気的心停止までの時間は, 無処置群が1,021±197秒, IPC群が676±107秒とIPC群において有意(p<0.05)に短縮した. 一方, CP施行後電気的心停止までの時間は, 無処置群が33±7秒, IPC群が39±9秒と両群間に有意差を認めなかった. 単純虚血心では再灌流後の冠灌流量, 心拍数及びLVDPはIPCによって有意に改善したが, CP施行心ではこれらの諸指標にIPC群と無処置群との間に有意差を認めなかった. 虚血中のLVEDPは, 単純虚血心, CP施行心の両群においてIPCによって虚血早期から有意な上昇を示した. しかし, 再灌流30分後のLVEDPは単純虚血心ではIPC群において無処置群と比較して有意な低下を示したが, CP施行心では両群間に有意差を認めなかった. 再灌流後のCK遊出量は単純虚血心ではIPCによって有意に抑制されたが, CP施行心では両群間に有意差を認めなかった. 心筋ATP含量は, IPCによって有意に減少した. しかし, 単純虚血心では虚血及び再灌流後のATP含量は, IPC群において有意に高値であった. 一方, CP施行心では虚血, 再灌流後の心筋ATP含量に両群間で有意差を認めなかった. 心筋乳酸含量は, 単純虚血心では無処置群において著明に増加したが, IPC群ではその増加は有意に抑制された. しかし, CP施行心では虚血後の心筋乳酸含量に2群間で有意差を認めなかった. 以上の成績から, IPCは単純虚血心では心拍停止時間の有意な短縮をもたらし, エネルギー代謝を改善して心筋保護効果を発揮するが, CPによって速やかな心停止が導入された虚血心ではIPCの付加的な心筋保護効果は得られないことが示唆された.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords : ischemic preconditioning, cardioplegia
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