Abstract : |
弓部大動脈手術時に長時間(60分以上:A群)の超低体温逆行性脳灌流(RCP)を施行した症例について短時間(60分未満:B群)の症例と比較し, RCPの安全限界について検討した. 対象は1995年12月までに当センターでRCPを施行した116症例とした. A群は28例, 年齢は平均64±14歳, RCP時間(RCPT)は60-94分に対し, B群は88例, 年齢は65±11歳, RCPTは24-59分であった. A群とB群において病院死はそれぞれ7.1%と6.8%で有意差は無く, 脳障害に起因した死亡症例はなかった. 周術期中枢神経系合併症はA群3例(脳梗塞1例, 一過性中枢神経系障害2例), B群3例(脳梗塞1例, 一過性中枢神経系障害2例)であり有意差は認めなかった. 覚醒確認時間及びICU滞在日数は2群間で有意差を認めなかった. また脳波及び脳高次機能を術前後で比較したが, A, B両群間に有意差を認めなかった. 今回RCP中の脳内還元ヘモグロビン増加量(HbR)を近赤外線脳内酸素モニター(NIRO)により持続的に測定した(n=55). その結果, RCPTとHbRは正の相関を示した. 以上より, RCPTは恐らく臨床的には90分程度までは安全ではないかと推察された. RCP中にNIROは脳内の酸素状態をよく反映し, しかも無侵襲で簡単に検査できることからRCPの時間的安全限界の1指標としてHbRは有用と考えられた. |