| Abstract ： |
従来より弓部大動脈瘤術後の脳障害に関する報告は多いが, 今回は, 当科における弓部大動脈瘤を含めて, 胸部大動脈瘤全体における術後脳障害併発例の問題点と対策を検討した. 過去21年間の胸部大動脈瘤手術施行例(184例)のうち, 25例(13.6%)に脳障害が発生した. 脳障害の原因は弓部大動脈並びにその近傍の大動脈操作による塞栓(6例), 左鎖骨下動脈の遮断(4例), 脳分離体外循環の障害(4例), 高度なショック(3例), 手術操作と無関係な塞栓(3例), 解離による弓部分枝の閉塞(2例)と人工心肺からの空気塞栓, 不十分な低体温による循環遮断, 頸動脈へのバイパスの血流障害が各々1例であった. 予後は改善が8例であるが, うち2例は病院死となった. 不変は17例で, 16例が病院死となった. 脳障害併発の危険因子は, 単変量解析では患者の年代(p=0.05), 瘤の部位(p=0.04), 術前脳合併症(p<0.01), 緊急手術(p=0.03), 大動脈弓部での遮断(p<0.01)で有意差を認め, 多変量解析では腕頭動脈と左総頸動脈間での大動脈弓部の遮断(p=0.03), 脳分離体外循環(SCP)(p=0.03), 緊急手術(p=0.02)の各因子で有意差を認めた. 手術成績の向上には弓部大動脈の遮断を避け, 出血を防ぎ, 緊急手術の迅速・適切な処置, 左鎖骨下動脈遮断での注意などが必要と考えられた. |
